令和になって
医療訴訟は増加しています

2004年の2000件をピークに右肩下がりに見えた
医療訴訟の新受件数ですが
2007年に底を打った後は800件前後での横ばいが続き
令和になってからは、むしろ微増傾向です。

訴訟対応に職員は疲弊します
医療訴訟にかかる期間と費用(最新版)

医療訴訟が提訴されると
平均審理期間は26.7月(2020年最高裁統計)
その4分の1が審理に3年以上かかり
5年を超えるものの5%近くになります。
2014年以降はさらに微増傾向となっています。
そして、やっと結審しても、6割弱が上訴され
まだまだ裁判の拘束は続きます。

また、ひとたび提訴されると
答弁書の作成、提出、口頭弁論での陳述、証拠の提出、証人出廷など
対応に膨大な時間が費やされ、その対応にかかる人件費などの出費も大きく、
最近の傾向としては
病院と医療者個人(例えば医師A、看護師Bなど)それぞれを提訴する事例も多く
対象となった医師や看護師等医療職、
担当する事務職員などへの業務的及び心理的負担が大きく
大切な職員の疲弊を招く場合もあります。

さらに、提訴されたことが報道されると
医療過誤を起こした病院として
病院のイメージにかかるダメージは、金額で表すことはできません。

これらは、いくら医療賠償責任保険に加入していたところで
避けて通れるものではないでしょう。

敗訴の場合、さらに大きなダメージが
令和の医療訴訟事例

令和になってから出た判決の一例として
クモ膜下出血により入院していた患者が
低酸素脳症に陥り、その後死亡した事件があります。
「生体情報モニタのアラーム設定確認が不十分だった」として
大学病院の過失が認められ、請求額1億7832万円のうち
病院開設者に6038万円の支払いが命じられました。
(東京地方裁判所令和2年6月4日判決)

これは、事故発生が平成27(2015)年3月、訴訟開始が平成29(2017)年12月
そして判決が令和2(2020)年6月です。
発生から数えると5年以上の時間をかけて
さらにこんなに大きなダメージを受けてしまうことになります。

なぜ医療訴訟が起こるのでしょうか
医療訴訟が起こる理由

裁判では、判決のうち、原告の請求が全部または一部が認められることを
『認容』といいます。
通常(一般の民事事件)裁判での認容率は9割近く(86.7%)です。
けれども、医療裁判では認容率は2割程度(22.2%)しかありません。
そもそも、判決率自体が31%と低いため、
提訴しても判決で原告の請求が認められるのは7%に満たないという低い数値です。

理由としては、
医療過誤の立証には相当に高い専門性が必要となるため
医療的知識の乏しい原告(患者)側が
それを立証するのが困難であることが大きいと考えられます。

患者さん側からすれば
準備や提訴に時間と費用をとられたうえに
そのほとんどの請求は認められない。
訴えることのメリットは探しにくいと言えるかもしれません。

それでは、なぜ、そんな状況であっても
患者さんは医療訴訟を選択するのでしょうか。

患者さんと医療者の
対話促進(メディエーション)があれば
防げた医療訴訟事例

「お医者さんとは1回めの話し合いで話ができただけ。
 次からは担当者に対応窓口が変わったが、
 『質問に答えて欲しい』『内容を文書で知りたい』等の希望は通らず
 (それどころか担当者からは)威圧的に感じられる言葉があった。
 その後、医療事故審議会を通すと通知があったが
 患者側は資料も見られず意見も反映されない。
 説明もなく、見舞金という保険金が渡されたのみ。
 このまま黙っていれば、お金だけが目的だと思われると思った。」

医療事故で夫を亡くし、医療裁判で請求を認められた方から聞いたお話です。
この方は、
「病院に、私たち遺族の痛みを共有して欲しかった。
 事故を教訓として生かそうと努力する姿勢を見せて欲しかった。」
そう望んだだけだったと言われます。

それが叶わず提訴し、結果として請求額は認められたものの
「質問への回答を受けることができたのは良かったが
 (裁判は)争点を絞るため、全ての事実を明らかにするものではなく
 (病院が)判決をどう受け止め今後に生かすかまでは示してもらえない。
 結局、病院は何も変わらないのではないか。」
と、最終的には虚しさだけが残ったそうです。
そして
「(裁判では)病院と対立構造になるのが辛かった。」
とも言われています。

この事例では、患者さん(ご遺族)と病院、双方が傷ついた結果となっています。
なぜこんなことが起こるのでしょうか。

このご遺族が望んでいたのは
「痛みを共有して欲しい。」「事故を教訓として欲しい。」
その思いを伝えたかった。
決して病院と対立したかったのではなく、
病院からの真摯な謝罪と「二度と同じことが起こらないように改善します。」
その言葉が聞きたかったのではないでしょうか。

ご遺族が望んでいたものは、まさに『対話』だったのです。

適切なメディエーションが
結果的に患者さん(ご家族)だけでなく
医療者も救います。

突然、医療事故で大切な人を亡くしたご遺族の悲嘆は
想像を絶するものでしょう。
混乱もあるでしょう。罪悪感を感じる場合もあるそうです。
心の整理がつかないままに、口からこぼれ出る言葉があって当然です。

では、事故を引き起こした当事者はどんな思いでいるのでしょうか。
以前、研修で観た
医療過誤で死亡事故を引き起こした看護師のインタビュー映像。その衝撃が忘れられません。
「事故直後から、私は現場から引き離されました。
 どれだけ責められても、(ご遺族に)直接お詫びを言いたかったのですが、
 師長さんからは『あなたの為よ』と、会わせてもらうことはできませんでした。
 お詫びを言えてないことが、ずっと心から離れません。」
事故から5年以上経過して、やっと気持ちを話すことができたと語る彼女でしたが
声は震えがちで、医療のみでなく、社会への復帰もままならないそうでした。

医療者の多くは「人を助けたい」思いが強いからこそ、医療者への道を志すのです。
その自分のミスで大切な人に危害を加えてしまった。
もしそんなことがあれば、自分を責める気持ちは強く、それはいつまでも続きます。

多くの病院では、医療事故マニュアルを設置していることでしょう。
報告体制や、事故調査、患者への説明、再発防止策の検討…様々なことが決められていますが
事故を引き起こした職員へのケアについて記述されているでしょうか。

適切なメディエーションのもとでの『対話』は
医療者が事故を受け止め、前を向いて歩んで行くことにも繋がっているのです。

不信感は時間と共に育ちます
患者さんが病院の相談窓口に行けない理由

不安や不満は時間と共に大きく育つことが多く
時期を失することなく、適切な時に適切な対応で芽を摘み取りたいもの。

患者サポート体制充実加算(A234-3)を算定している病院であれば
相談支援窓口を設置し、専任の担当者(医療メディエーター)が配置されているはずです。
患者さんは、自分の受けている診療について不安や不満があれば
そこで相談できるようになっていることでしょう。

ところが、患者さん側から見ると
そこに相談するのは、病院によっては、ハードルが高い場合があるのです。

相談に行けない理由として
◇医療者に伝わると、信頼していないと受け取られて、今後の診療に影響がでるかも。
◇病院の人に相談しても結局、病院の都合の良いようにされてしまうのでは。
◇何をどういって話せばいいかがわからない。
◇看護師さんなので、病気の相談しかできないのかと思ってた。
◇相談窓口に人がいない。相談窓口がどこかがわからない。
などが聞かれ、人がいない、場所がわからないなどは論外ですが
病院側のウェルカムな姿勢は伝わりにくいようです。

患者さんと医療者が安心して対話するために
フリーの医療メディエーターが必要な理由

私が相談窓口で対応していた経験からでは
特に、医療者に「クレーマー」と思われることを恐れる気持ちは
かなり大きいように感じています。
「病院の人なので、相談しても病院の都合で丸め込まれるだけだと思ってた。」
そうおっしゃる方もおられました。

また、意を決しての相談となると患者さんも緊張し口調も厳しくなるもの。
さらに、内容が整理できず感情が表に立つと
対応に慣れていない職員なら、何を言っているかの理解から難しく
「怖い」と思うこともあるかもしれません。
そして厄介なことに、そうなるとお互いが緊張してしまうため、
話が余計にややこしくなってしまう場合もあります。

そこで、病院職員以外の対応者が
患者さんに寄り添い、じっくり話を聞き
患者さんの思い・不安・不満・不信感の本質を探ったうえで
病院と患者さんが、安心して『対話』できる環境をつくります。

まだ、フリーの医療メディエーターは少ないと思われます。
というか、私以外にはまだお目にかかったことがありません。
ご相談等がございましたら、先ずはお問い合わせ窓口からご連絡ください。